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nCino Summit Japan 2025」レポート:世界2,700行の知見から予測する金融業界の未来

Japan summit 2025 cover
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世界2,700行と共に培ってきた知見から予測する金融業界の未来、来日したCEOが情熱的に提言

11月19日、nCinoは年次イベント「nCino Summit 2025」を開催した。今回は「業務変革の先にある、新しい銀行体験~データ×AIが統合された業務基盤が、銀行の未来を形づくる~」をテーマに掲げ、会場のシャングリ・ラ 東京には多くの金融機関関係者が集まった。

■着実に進んでいる日本の銀行業務変革

ホストとして登壇した野村逸紀氏は、基調講演の始まりに際し、「2025年11月をもって、nCinoの日本法人は5年目を無事に迎えることができた。最初の3年目までを振り返ると、本社と共に試行錯誤しながら、変革への貢献能力を全国の銀行に伝える方法を模索した。その過程で様々なチャレンジに直面したが、この2年間で採用決定が増え、2025年11月時点でお客様数は14行にまで増えた。先行導入したお客様には、この場を借りてお礼を言いたい」と感謝の言葉を述べた。

野村逸紀氏(nCino株式会社 代表取締役社長)

チャレンジの中でも最大のものは、「法人融資にSaaSが使えるのか?」という各銀行幹部たちの懐疑的な意見を払拭することだった。SaaSの良さを実感してもらうまでに時間がかかるのは、銀行に限ったことではない。どの業界でも事情は同じだ。また、nCinoの本国の米国の銀行でも同じだった。今では世界中の銀行が、同様の心理的抵抗を乗り越えて変革を進め、成果を獲得している。

nCinoは、顧客がまだ数行しかいなかった2011年の創業当初から「クラウドバンキングの世界的リーダーになる」という野心的なビジョンを掲げ、製品強化を続けてきた。また、創業当初からのミッション「革新、信頼とスピードで銀行業界を変革する」も今に至るまで変わらない。そして、融資でのSaaSの活用が当たり前になったその先には、AI活用が待つ。

AIは融資のデジタル化で実現したビジネス価値をさらに増幅させることができるだろう。まだチャレンジは残っているとしつつ、野村氏は「他の銀行にも先行する世界中の銀行に続いてほしい。nCinoの導入で、未来に向けて大きな一歩を踏み出せると私たちは信じている。日本のお客様が価値を享受する上で、本社の支援が益々必要になる。これまで以上にグローバルの仲間との協力を続けたい」とした。

■2,700行超のデータ資産に裏付けられたnCinoのインテリジェンス

野村氏に続いて登壇したショーン・デズモンド氏は、2025年2月にCEOに昇格する前、CPOとして長く製品チームを率いてきた実績がある。その豊富な知識と経験からnCinoの強みは、世界2700超の既存顧客のデータ資産にあるとした。nCinoの顧客は地域も規模も様々だ。その全ての顧客からデータ共有への同意を得て、匿名化などの加工を施したデータセットを整備しており、顧客それぞれが信頼できるインテリジェンスにアクセスできる。

ショーン・デズモンド氏(President and Chief Executive Officer nCino, Inc.)

そして、デズモンド氏は、「私たちは銀行業務に精通しているだけではない。銀行業務の変革に情熱を注いでいる」と強調する。nCinoを導入する銀行は、自分たちの仕事のやり方を根本的に変えなくてはならない。オンプレミスのアプリケーションを導入する時は、自分たちの業務のやり方をシステムに反映してもらうことができたが、SaaSではシステムに業務を合わせなくてはならない。その過程では、少なくない痛みを伴うことも予想される。その代わり、定期的なアップデートで常に最新の機能を利用できる。国内で地域密着型のビジネスをする銀行でも、世界有数の銀行と同じ仕組みを使えるのがSaaSの良さだ。業務を止めることなく、AIを含む新しい機能を使うことができる。

そして、今後のnCinoユーザーのAI活用に向けて重要な役割を果たすのが、nCinoが独自に構築したデータ基盤である。デズモンド氏によれば、このデータ基盤は、あらゆる銀行業務へのインテリジェンスの組み込みを支えている。AIは日々の銀行業務から得たデータを材料に学習を続け、ユーザーに信頼できるインテリジェンスを提供してくれる。

図1:独自データ基盤が支えるnCinoのAI

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出典:nCino

■役割別AIエージェント「Digital Partners」を提供

AIの最新トレンドの焦点は、AIアシスタントから早くもAIエージェント活用へと移った。まだ本格的な活用は始まっていないが、nCinoでは2025年11月から役割ベースのAIエージェント「Digital Partners」の提供を開始した。以下の5つのユースケースを選ぶ際、注目したのは特定の役割に従事する担当者の業務のやり方である。デズモンド氏は、「ユーザーのnCino体験を分析し、実行頻度が高く、定期的に繰り返すタスクを対象にAIエージェントを構築した」と解説した。

○Executive Digital Partner:経営幹部に意思決定のための戦略的インテリジェンスを提供する

○Analyst Digital Partner:信用アナリストやアンダーライターのリスク評価を支援する

○Service Digital Partner:顧客関係マネジメントを強化し、クロスセルやアップセルの機会の特定を支援する

○Processor Digital Partner:書類、コミュニケーションスケジュール、コンプライアンス要件の検証を実施し、ワークフローのボトルネック解消を支援する

○Client Digital Partner:顧客にセルフサービス型のバンキング体験を提供する

また、nCinoのAIには、Operation Analyticsと呼ぶダッシュボードもある。このダッシュボードは、大きく2つのデータを利用するものだ。1つは、エンドユーザーの通常利用で生まれる閲覧画面、クリック、ドラッグ&ドロップなどの操作に関するデータ、もう1つはビジネスの実績データである。2つを統合すると、ワークフローの非効率的な場所の特定や、同じnCinoユーザーでベンチマーク対象として適した他の銀行との比較分析が可能になる。

図2:事業戦略策定に資するインテリジェンスを提供するオペレーショナルアナリティクス

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出典:nCino

■4つの戦略的コミットメントと3つの約束事

デズモンド氏の説明に続いて、再び登壇した野村氏は、国内の顧客の成長に貢献するための方針を4つ挙げた。

1. 法人融資業務改革・シングルプラットフォームの加速

2. リテール分野での定着と拡大

3. AIへの投資加速による銀行の未来の共創

4. 先行者への投資の継続と加速

まず、1番は、法人融資への導入を成功させてこそ、より大きな成果を獲得し、変革を加速できるという信念に裏付けられたものだ。国内では最初に法人融資で導入を決めた事例も出てきた。これに続く新しい仲間を増やすことに取り組んでいく。2番には、個人融資から導入した銀行に、定着を進めて早く成果を獲得してほしいという思いが込められている。スモールスタートのスコープで個人融資を選ぶ事例はこれからも出てくるだろう。後に続く銀行にも、変革を実現してもらうべく、法人と個人の両方に力を入れていく。

デジタル化の先にはAI活用が待っている。デズモンド氏が紹介したように、AIエージェントと共に仕事をする世界が現実のものになってきた。3番については、新機能のローカライズのスピードアップに取り組み、国内での提供開始に向けて準備を進める。最後の4番は、研究開発への投資を通じて、ユーザーが常に新しい機能を利用できるようにすることだ。先行して導入した銀行への形を変えた還元でもある。このサイクルを回し続けることで、顧客はより大きな成果を得られるはずだ。

図3:製品への継続的投資を通して実現する価値の増大

Japan Summit Data 04

出典:nCino

新しく、日本市場に特化した製品チームも立ち上げた。米本社のグローバル製品ロードマップ策定時に、日本市場からのフィードバックを基に、戦略的な提言を行うことをチームのミッションとする。すでに画面や表記の刷新の実績も出てきた。最後、野村氏は日本の金融機関に向け、以下の3つの約束事を表明し、基調講演を締め括った。

正しいカルチャーで接します:パートナーのあるべき姿を貫き、時には耳の痛いことも口にする。

皆様の成功にコミットします:最大のROIを適切なタイミングで得られるようサポートする。

皆様の仲間を増やす:メンバーの力の増幅に繋がるコミュニティの繁栄に取り組む。