
「nCino Summit Japan 2025」セッションレポート:#2
銀行業務の本丸、法人融資にSaaSを本当に適用できるか?徳島大正銀行の主要メンバーが本音で語ったプロジェクトの全貌
11月19日にnCinoが開催した「nCino Summit 2025」。基調講演の導入事例として、最も大きく取り上げられたのが、徳島大正銀行が進める「営業と融資の一体型改革」への取り組みであった。
■営業と融資の一体的改革の必要性
徳島大正銀行は、徳島県徳島市に本店を置く第二地方銀行。隣県の香川県を地盤とする香川銀行とは2010年よりトモニホールディングス株式会社を親会社とする金融グループを形成している。2025年3月末時点で、徳島県内49店舗、大阪を中心とする関西圏25店舗、インターネット店舗などを含む全108店舗で事業を営む。本業で稼ぐ力を示す1人あたりコア業務純益は、地銀・第二地銀平均を上回る。一方で、コンサルティングなどの非金融事業での収益力向上が重要な経営課題であった。
この課題を解決するために渉外担当者の事務負担を減らし、訪問前の事前準備時間やお客様との対話時間を十分に確保することで営業力を質・量共に高めていくことを目指した。2024年2月、徳島大正銀行は約900名の営業店職員に対して日々の活動・事務作業時間等に関する調査を実施した。調査結果を営業エリア別、店舗別、職位別、担当別に集計し、1人当たりの業務量とみなしコストを算出した。その結果、営業活動と同程度に時間をかけていた融資事務時間を削減する必要性を強く認識した。
この結果を踏まえ、西村博氏は「当初のデジタル戦略では、営業系システムの高度化を進めるつもりでいたが、融資系システムも併せた一体的改革でなければ、本当の意味での業務改革が困難と判断し、戦略を見直すことにした」と打ち明けた。また、営業支援システムと融資支援システム共、稼働開始から20年以上経過しており、更改の必要性を感じていたともいう。そして、解決の切り札として導入を決めたのが営業・融資業務をワンプラットフォーム化できるnCinoである。2024年10月に導入を決定。2025年4月からプロジェクトを立ち上げ、2026年10月の稼働開始に向けて開発作業を進めている。

西村博氏(株式会社徳島大正銀行 専務取締役 総合企画本部長兼企画部長)
■顧客と行員のためのシステム
「そんなに都合の良いシステムなんてあるはずがない」というのがnCinoに対する第一印象。しかし、部下たちの熱心な説明を聞くにつれ、徐々に気持ちが固まったと西村氏は振り返った。対談相手の野村氏へも「言いたいことは全部言った。気になるところは全て直接質問したし、費用もゴリゴリと交渉した。導入がゴールではない。一緒に手を繋いでやっていけるパートナーとして選んだつもり」と述べ、度重なる面談・交渉を通して信頼関係を構築していった。
さらに、西村氏は「全ての経営陣がシステムに詳しいわけではない。説明と対話を繰り返し、どんなシステムにしたいのか。経営陣を含む関係者全員が1つのビジョンを共有するプロセスを大事にした」と語った。業務機能ごとに使うシステムが異なり、データが様々なシステムに分散保管されている状態から、nCino導入後はワンプラットフォーム化され、データも一元管理される。これにより煩雑な事務の負担が軽減され、手続きをより迅速に進められるようになる。融資取引のスピードアップはお客様へのメリットも大きい。
徳島大正銀行では、現行の7システムをnCinoに統合することで、営業店における業務効率化を実現し、1カ月あたりおよそ15,000時間、90人月分の期待効果が得られると試算している。「商売はお客様がいて初めて成り立つ。最前線に立つ営業店の行員が、顧客接点の時間を増やすことにやりがいを感じ、お客様に恥ずかしくない商品、サービスを提供する。営業店を効率化し、本業に集中できる環境をいかに作れるかが重要だと思う」と西村氏は語っていた。
図1:導入前後のシステム構成と期待効果

出典:徳島大正銀行
■法人融資プロセスを一気通貫でサポートする革新的システム
西村氏に続いて登壇したのが、導入プロジェクトの主要メンバーである。リーダーを務める松田大輔氏は、業務面とシステム面からnCino選定にあたって重視したポイントを説明した。業務面では①顧客情報の一元管理の実現、②複数の業務システムをまたぐ煩雑な事務の削減、③ペーパレス化の3点を挙げた。システム面では①開発期間の短縮・早期リリース、②統合システム内のインターフェース最小化、③稼働後の開発・運営の内製化、④これらを通じたイニシャル・ランニングコストの抑制の4点を挙げた。

松田大輔氏(株式会社徳島大正銀行 企画部次長兼企画部デジタル戦略室次長)
法人融資のプロセスは「決算書授受」から始まり、「財務データ登録」「担保評価」「格付取得」「稟議起案」を経て、「稟議決裁」「契約書受入・保管」「実行前条件の管理」と進み、最後の「融資実行」を経て、その後の「条件・期日管理」へと続く。従来はこのプロセスを進めるために複数の業務システムを利用せざるを得ない状況にあり、データの散在や煩雑な事務による業務効率の低下を招いていた。これが前のパートで西村氏が語った同行の課題の正体である。
稼働後、渉外担当者が全ての業務をnCino上で遂行できるようにする計画だ。nCinoはSalesforce上に構築されているため、財務や担保、格付、稟議といった融資以外のCRM機能や、渉外活動支援(SFA)といった分野もサポートする。さらに、稟議決裁後の電子契約もnCinoから可能になるほか、債権書類の管理・保管もnCinoで実現される。

ゲスト講演登壇者(右から):淺井 元太氏(アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 コンサルティンググループ シニア・マネージャー)、中野 一朗氏(株式会社徳島大正銀行 企画部次長兼企画部デジタル戦略室次長)、松田 大輔氏(株式会社徳島大正銀行 企画部次長兼企画部デジタル戦略室次長)、久平 博文氏(株式会社徳島大正銀行 審査第二部 次長)、千種 拓磨氏(nCino株式会社 プリンシパルプロジェクトマネージャー)
■プロジェクトでのチャレンジと実感・期待
プロジェクトに導入パートナーとして参画したアクセンチュアの淺井元太氏(アクセンチュア株式会社 ビジネスコンサルティング本部 コンサルティンググループシニア・マネージャー)は、この設計に至るまでには非常に多くのチャレンジに直面したと振り返った。一般に語られる「システムに業務を合わせる」という姿は、銀行に限らず、多くの日本企業が試みて頓挫したことだ。しかし、今回のプロジェクトでは、「nCinoがこうだから、規程をこう変えるべき」といったような形で、建設的な議論を重ねられた。その背景には、グローバルベースのシステム(Fit To Standard)がもたらす確かな利便性・操作性向上があった。また、勘定系との連携は最大のチャレンジだったが、勘定系のベンダーからの協力を得て、ベストな実現方式を決定できた。「国内地銀における事業性融資領域でのnCino採用は今回が初めて。当然大変ではあるが、やってできないことはない」が今の実感と淺井氏は語った。
講演で多くのデモを担当した中野一朗氏(株式会社徳島大正銀行 企画部次長兼企画部デジタル戦略室次長)は、プロジェクトでは営業系業務や画面等の要件定義・設計をリードしている。稼働後は、内製化リーダーとして運用に携わる予定の同氏は、「やりたいことを相談された翌日に、プロトタイプを見せられるようなスピードでできると実感した。みんなで育てていける仕組みにできると思う」と前向きな期待を示した。また、融資系業務の要件定義・設計業務をリードしている久平博文氏(株式会社徳島大正銀行 審査二部次長)は、システムに業務を合わせる難しさを実感した当事者だ。現行のやり方にこだわってしまっては新しい融資業務の姿は見えてこない。「新しい世界を見るのだ・作るんだ」という強い気持ちで、グローバルシステムと日本の融資業務の融合にチャレンジしていると語った。
最後に松田氏は、「設計工程が終わった今、当初にやりたかったことが実現できるという確信を得た」と述べた。また、「始めてみると、想定していなかったことが次々に起きる。今も常に大玉の課題が3・4個ある状態。とはいえ、プロジェクトを始める前にすべての問題事象を特定することは不可能。また、最初から起きる問題すべてが全てがわかっていたら、プロジェクトを開始できなかったかもしれない。」と語り、ある程度の見通しが得られたら、思い切ってプロジェクトを始めることも一つの選択肢との考えを示した。

