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AI時代における銀行の融資業務変革とは?

─ 日本の銀行業界が直面する課題と解決の道筋

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著者:nCino株式会社 代表取締役社長 野村 逸紀

変革の必要性は、従来から多くの銀行が認識してきた。

その一方で「個別最適で積み上げたシステム構造」「要件変化への対応コスト」「プラットフォームの選択肢不足」といった環境的な制約が、その歩みを遅らせてきた面もある。では、その制約を踏まえた上で、変革をどう定義し、どう進めるか。

AI時代における融資業務変革の定義・日本の銀行が踏み出す背景・統合プラットフォームがそれをどう支えるかを、日本の金融機関と融資業務について深く対話を重ねてきたnCinoの知見をもとに解説する。

1. 融資業務変革とは何か

融資業務変革とは、プロセス全体を再設計する取り組みだ。

融資業務変革とは、申込受付から審査・契約・実行後のモニタリングまでの融資プロセス全体をグローバルスタンダードに沿って再設計し、データと業務フローをシングルプラットフォームに統合する取り組みだ。これにより、収益向上・コスト削減・効率性向上・リスク低減/コンプライアンス管理という4つの価値を、人とAIエージェントの協業によって同時に実現する。

2. なぜ日本の銀行は融資業務変革に時間がかかるのか

日本の銀行が変革に時間を要している理由として、失敗が許されない規制産業ゆえの慎重さに加え、変革をさらに難しくしてきた三つの制約がある。

変革への意識は、日本の銀行の間でも着実に高まってきた。人口が自然減少する中で、限られた人員のまま融資量と質の両立を求められる環境が続いており、日本の銀行業界において業務のあり方を見直す機運は強まっている。ただし、変革を大きく前進させるには乗り越えるべき環境的な制約がある。

第一の課題:個別最適で積み上げたシステムが、全体再設計のハードルを高めてきた

銀行の融資システムは、複雑な業務プロセスの各フェーズに対応するため、長年にわたって個別に構築・拡張されてきた。それぞれの業務要件には精緻に応えてきた一方で、プロセス全体をひとつの設計思想でつなごうとすると、関係するシステムと部門が多岐にわたり、全体最適に向けた合意形成と調整の難易度が非常に高い。

第二の課題:スクラッチ開発は、変化への対応に継続的なコストが伴いやすい

個別に組み上げたシステムは、導入時の要件に応じて設計される。その特性上、業務フローの変更や新機能の追加が必要になるたびに、ベンダーへの追加開発依頼とそれに伴うコスト・リードタイムが発生しやすい。ビジネスの変化やテクノロジーの進化にシステムが追い付かないのだ。

第三の課題:選べるプラットフォームが限られていた

融資プロセス全体を一気通貫に再設計できるプラットフォームは、日本市場では長らく選択肢が少なかった。グローバルで実績を持つプラットフォームが日本市場でも本格的に展開されるようになったのは、比較的最近のことだ。「変革したくても手段がなかった」状況から、変革の手段を主体的に選べる環境へ──その転換が、今まさに起きている。

そしてAIの飛躍的な進歩により金融業界においても業務の再定義を迫られる現在、AI活用の基盤となる統合プラットフォームの重要性はますます高まっている。

3. 変革を進めるための論点整理

変革を前進させるには、「何をどう変えるか」「どう継続するか」「AIをどう使うか」の三つを整理することが有効だ。

論点1:何を、どう変えるか ─ プロセス全体をつなぐことで初めて見えてくるもの

変革の目的は、システムを入れ替えることではなく、融資現場の業務そのものを変えることにある。現状の融資現場では、顧客との面談、財務分析、稟議書の作成、書類の回覧確認といった業務が、それぞれ別のシステムや媒体で管理されているため、担当者は情報を集めること自体に多くの時間を割いている。本来であれば顧客との対話や提案活動に充てるべき時間が、事務作業に費やされている。

データの面でも同様だ。「この顧客に最後に会ったのはいつか」「財務状況はどう変化しているか」「どの案件がどの段階まで進んでいるか」──こうした情報を横断的に把握しようとすると複数のシステムを行き来する手間が生まれ、リアルタイムで顧客の全体像を把握することが難しい。蓄積されているはずのデータが、業務判断や提案活動に活かされないまま埋もれている状況だ。

統合プラットフォームで業務プロセスを再設計すると、この構造が変わる。申込から審査・契約・実行後のモニタリングまでが一気通貫でつながることで、顧客に関するあらゆる情報が一元管理される。重複入力や書類回覧といった事務作業が削減され、担当者の時間は顧客との対話と提案に振り向けられるようになる。

さらに、データが統合されることで「攻めの融資」への転換が現実的になる。業種・創業年数・財務指標などに基づいて資金ニーズのある顧客を抽出したり、取引履歴をもとに最適なタイミングで提案を打ったりと、これまでベテラン担当者の経験や勘に依存していた営業活動を、データに基づく組織的なアプローチとして再現できるようになる。経験値の少ない若手行員でも質の高い提案が可能になることは、組織全体の底上げという観点でも重要な変化だ。

グローバルスタンダードが目指すのは、まさにこの姿だ。システムを業務プロセスに合わせるのではなく、世界の先進的な金融機関が実践してきたベストプラクティスに沿って業務プロセス自体を設計し直すことで、事務負荷を構造的に減らしながら、顧客対応と収益創出に集中できる組織へと変革する。

論点2:変革をどう継続するか ─ 本番稼働後も自行で進化し続けるプラットフォーム

変革は、統合プラットフォームを導入した時点で完了するものではない。業務要件は変わり続け、規制への対応が求められ、テクノロジーは急速に進化する。導入後も変化に追従し続けられるかどうかが、変革の持続可能性を左右する。

nCinoはノーコード・ローコードの設計思想に基づいて構築されているため、銀行のIT部門・業務部門が設定変更やワークフローの追加を自行で進めることができる。ベンダーへの依頼を待つことなく、現場のニーズに応じた改善を迅速に実行できる環境が整う。当社のお客様の多くが、自行で変革を継続できる組織の姿を日本の最先端で体現されている。

さらに、プラットフォーム自体も毎月アップデートされる。世界中の金融機関から積み上げられたフィードバックが継続的に反映されるだけでなく、生成AIをはじめとした急速に進化するテクノロジーも、プラットフォームの機能として順次実装されていく。最新のAI機能や業界のベストプラクティスを取り込み続けられる。変革を一度で終わらせず、継続的に進化させ続ける仕組みが、プラットフォームとして組み込まれているのだ。

論点3:AIをどう活用するか ─ データ基盤と銀行特化AIが揃って初めて力を発揮する

融資業務におけるAI活用への関心は、多くの銀行で高まっている。nCinoが2026年5月に発表した米国の銀行シニア意思決定者150名を対象とした調査「AI in Banking Benchmark」では、89%が「5年以内にデュアルワークフォース(人とAIエージェントが協業する体制)が実現する」と回答している。

融資業務において、AIはすでに複数の場面で実用的な役割を担い始めている。財務諸表のデータ化と分析、稟議のドラフト作成、実行後のモニタリングにおける異常検知やアラート生成など、これまで行員が多くの時間をかけて行ってきた定型的・反復的な作業をAIエージェントが担うことで、行員は顧客との関係構築や複雑な案件の判断に集中できるようになる。人が培ってきた経験や判断力と、AIが持つデータ処理能力と一貫性が組み合わさることで、融資業務全体の質とスピードが同時に向上する。

ただし、AIの活用効果はデータの質に大きく左右される。審査・契約・モニタリングにわたるデータが分散した状態では、AIが参照できる情報は断片的になり、精度の高い判断支援は難しい。融資プロセス全体のデータがひとつのプラットフォームに統合されていることで初めて、AIは業務の文脈を踏まえた形で現場を支援できるのだ。

まとめ:変革の三つの論点が揃って、AI時代の融資業務変革は動き出す

AI時代の融資業務変革は、個別課題の解消ではなく、プロセス全体の再設計から始まる。統合プラットフォームでデータと業務フローをつなぎ、その歩みを自行で継続できる仕組みを整え、人とAIエージェントが協業できる基盤を構築する──この三つの論点が揃って初めて、収益向上・コスト削減・効率性向上・リスク低減/コンプライアンス管理を同時に実現できる。

環境的な制約が解消されつつある今こそ、その設計を始めるタイミングだ。nCinoは、日本の金融機関とともに融資業務の変革を伴走した実績をもとに、第一歩から継続的な進化まで一貫してパートナーとして支援していく。

著者情報

野村 逸紀(のむら いつき) nCino株式会社 代表取締役社長

富士通株式会社、EMCジャパン株式会社、デル・テクノロジーズ株式会社にてエンタープライズ営業・事業責任者を歴任。少子高齢化・競争環境の激変という社会背景のもと、ITコスト構造の最適化とアプリケーション変革を通じた経営貢献を推進してきた。2020年11月より現職。日本の金融機関における融資業務変革の普及を主導している。